福井県にはおしゃべりする地蔵様の話が残っています。
道を一人で歩いているときに地蔵様を見つけて「景気はどうですか」と話しかけたら「ボチボチ~」と返ってくる。想像してみると、かなり怖いかもしれません。このかなり怖いお地蔵様は現存しており、福井の観光スポットにもなっています。
暑い夏をちょっとだけ涼しくする福井の怖い話第3話をお届けします。
福井の民話「言うな地蔵」とは?
言うな地蔵「言奈地蔵(イウナジゾウ)」とは、現在の南越前町に祀られている地蔵にまつわる昔話です。ある素行の悪い男が地蔵に話しかけたところ、実際に地蔵がしゃべったのだとか。
言うな地蔵の話は、次のように伝わっています。
むかしむかし、あるところに素行の悪い男がおりました。
男はすっかり金を使い果たし、困っておりました。福井のある地域にあった地蔵様の側に腰を下ろして「さて、どうしたものか」と考えていると、地蔵様と男の前を荷運び中の男が通り過ぎます。素行の悪い男は「しめしめ」と思いました。金が無ければ奪えばいいのです。
素行の悪い男は荷運び中の男を脅します。「金も荷物も置いていけ」と。しかし荷運び中の男は「妻と子供がおります。金や荷物を奪われると暮らしていけません。どうか勘弁してください」と懇願します。けれど素行の悪い男は聞き入れず、荷運び中の男を殺して金も荷物も奪ってしまいました。
荷運び中の男を殺してから、素行の悪い男は周囲を確認します。周囲に目撃者はいないようでした。ただ、人はいませんが、側には地蔵様がいます。
素行の悪い男は地蔵様に話しかけます。「おい、そこの地蔵。俺が人を殺したところを見たのはお前だけだ。このことは絶対に言うなよ」と。
すると、驚くべきことに、地蔵様から「ああ、言わないとも」と答えがありました。「私は言わないが、お前が自分で口を滑らさないように」とも。地蔵様が口を聞いたのです。素行の悪い男は地蔵様がしゃべったことに驚き、金と荷物を持って大急ぎで逃げてしまいました。
それから年月が流れ、素行の悪い男はすっかり老人になってしまいました。若い頃の素行も落ち着きを見せ、いまではすっかりと普通の老人です。そんな老人は、ひとりの若者と出会い仲良くなりました。若者は旅人だといいます。目的があって旅をしていると、若者は言いました。
ある日老人は、若者と連れだって、かつて荷運びの男を殺したあたりにやってきます。そこには昔と変わらずお地蔵様が立っているのでした。
すっかり穏やかになったかつての素行の悪い男は、ふと気が向いて若者に昔自分がしたことを話します。お地蔵様が立っているあたりで荷運びの男を殺し、金と荷物を奪ったことがあるのだと。すると、仲の良かった若者の態度が急変しました。
「私は父親の仇を探して旅をしていたのです。まさか、お前が仇だったとは!」
老人は荷運びの男の息子に刺殺されてしまいました。かつて荷運びの男を殺した場所で殺されることになるとは、これまた奇妙な話です。かつての素行の悪い男の死体を見て、お地蔵様がぽつりとこぼしました。
「私は誰にも言わなかった。それなのに、お前は自分で口を滑らせたではないか」
言うな地蔵(言奈地蔵)は現存している
言うな地蔵は福井県南越前街に現存しています。北陸自動車道今庄ICから車で30分ほどのところに、現在でも大切に祀られています。
このお地蔵さまは弘法大師の作だと伝わっているそうです。木立の中にひっそりたたずむお地蔵様の周りはかやぶき屋根になっており、歴史と物語を感じさせます。現在でも多くの方が手を合わせに訪れるスポットになっています。
ふと人が途切れたときにお地蔵様に話しかければ、何か答えが返ってくるかもしれませんね。
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