2020年4月19日に県内一斉発売となった「さかほまれ」を使った新酒を紹介します。
今回、特別に福井県庁の方からお酒を提供して頂きました。
また、そのツテで福井県食品加工研究所の方へも同行させて頂き、
関係者からは今回のさかほまれプロジェクトに対する並々ならぬ熱意や期待といった物が伝わってくる取材となりました。(※取材は食品加工研究所の休業日に三密を避けて行いました。)
今回の記事はPRだけでなく、日本酒に対する知見や味わい方が広がるのではないかと思います。是非、最後までご覧いただけたら幸いです。
「さかほまれ」とは?
「米・水・酵母全てを県内産の大吟醸を作りたい」という福井県酒造組合からの要望を受け、
福井県農業試験場が2010年から独自に開発・栽培し、約8000種の候補の中から選抜された酒米の品種です。
日本一おいしいお酒になるように、飲んだ人が「栄えるように」との願いが込められ一般公募により名付けられました。
「さかほまれ」の味わい、特徴等
「さかほまれ」は、端的に言ってしまえば酒米の王様「山田錦」を目指し、匹敵する味わいを有するよう作られました。
つまり、味わいがしっかりと出てそれでいて品の良い繊細な風味が特徴です。
原材料名 | 米(さかほまれ100%)、米こうじ、醸造アルコール |
精米歩合 | 50% |
アルコール度 | 15度 |
希望小売価格 | 税込3200円(720ml) |
今回、福井県庁より提供して頂いたのは「一乃谷 さかほまれ 大吟醸」です。
一乃谷という銘柄は1620年創業の400年の歴史を持つ宇野酒造場(大野市)の造るお酒で、
個人的に普段は一乃谷の山廃純米生原酒を愛飲しており、非常にシャープな口当たりでキレ良く食中酒としての能力に優れたお酒という印象があります。
今回の「さかほまれ」を使ったお酒はどのように仕上がったのでしょうか?早速飲んでみたいと思います。
最初はベリー系の風味が鼻へ抜けて、ふくよかな甘味と旨味がやや強く感じられます。
それでいてキレが良く、後味を断ち切るような印象。
かなり巧みに酒米の長所と宇野酒造場の強みを生かした造りだと感じます。
何故こういった味わいになるのか
今回の「さかほまれ」はしっかりと味わいが出るような特性があるようですが、ではその「味わい」とは何なのかを大まかに解説していきます。
酒米と麹によって生じた糖を酵母菌が喰って酸とアルコールが発生する、というのが基本的な醗酵のメカニズムですが、
酒米の他にも日本酒の味わいに重要な影響を及ぼす物があります。それが酵母です。
今回取材に伺った食品加工研究所では、さかほまれのお酒に使用された酵母を研究し開発されました。
以下の表はさかほまれのお酒に使用された酵母をまとめた物です。(※これらの酵母以外の協会酵母や自社酵母等を使用しているものもあります。)
FK-501 |
2008年開発。食中酒向けでそこまで香り高くならない。バナナ系(酢酸イソアミル)の香りになる特徴がある。食中酒としての用途が多い為、福井の酒はこの香り特性の酒が多かった。 |
FK-801C |
2015年開発。主流のリンゴ系(カプロン酸エチル)の香りがするが、福井らしさを残すべくバナナ系(酢酸イソアミル)の香り特徴もある。醗酵力が低く量産に向かないという弱点がある。末尾のCはcompetitionの意味で、賞レースで勝ち残る為の酵母という事。 |
FK-802 | 2019年開発。FK-801Cの醗酵力を上げた改良版。 |
近年ウケているお酒というのはリンゴ系(カプロン酸エチル)の香りなので、FK-801Cはそれを目指して作られたのですが、
福井の酒というアイデンティティを残す為、FK-501のようなバナナ系(酢酸イソアミル)の香りも織り交ざった複雑な香りがします。
説明だけでは体感としては分からないので、特別に各種酵母の飲み比べもさせて頂きました。
プレリリース品につきテストラベルが貼られていたので写真ではボカシを入れましたが、今回は越前岬、福千歳、花垣を試飲しました。(※酒米は全てさかほまれ使用。ラベル以外は全て現在出回っているさかほまれ使用酒と同内容の物。)
・越前岬:酵母FK-501使用。説明の通りバナナ香がする。香りは穏やかで、口に含むと柔らかな甘味。
・福千歳:酵母FK-801C使用。ベリーを思わせる、形容し難い華やかな香り。甘味はそこまでではなくスッキリとした味わいで、仄かに酸味を感じる。糖をアルコールに変えるプロセスでFK-801Cは醗酵力が低く、度数が上がりにくいという事は自ずと糖が残って甘~い酒になるものと思っていましたが、非常に意外な仕上がり。この辺の味のさじ加減は最終的に酒蔵のテクニックに依る。
・花垣:酵母FK-802使用。こちらもベリー系を思わせる香り。福千歳と比べて味が強く出ている。上質な甘味を感じる。さかほまれの、よく味わいが出やすいという特性を極力生かす方向で酒造りを行ったそうです。
このように、同じ酒米を使用していても酵母や造り方によって味わいが変わります。
もっと言えばその日の本人の体調や酒の温度、管理状態やロットによっても味わいや受け取り方が変わります。
別の方が同じ酒を飲んで上記の感想とまるで異なった感想を持ったとしても、それはあり得るのです。
日本酒は本当に奥が深い。
それ故にハードルが高いとも言われますが、私はだからこそ面白いと感じます。
話が逸れましたが、今回は17蔵がさかほまれを使用したお酒を造りました。
是非機会があれば飲み比べてみて、造りや酵母の違いに思いをはせてみるのはいかがでしょうか。
以上。
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