先日、フェニックスプラザで行われた「春の新酒まつり」にて、
「これは美味いな!」と思わせられた酒蔵を発見したので、後日取材に出向きました。
福井県の今庄に蔵を構える堀口酒造の「鳴り瓢(なりひさご)」という日本酒なのですが、
端的に言って、皆さんはこの銘柄をご存知でしょうか?
正直、知らないという人の方が多いのではないかと思います。福井に住む年配者の方に聞いても、知らない、そもそも何て読むのか分からない、と。
しかし是非知って頂きたい!福井県民こそ、特に。
福井の誇る日本酒は、「梵・黒龍・花垣」だけではないのです。
美酒を育んだ今庄
蔵を構える今庄という所は、冬は雪深く、澄んだ空気と豊かな水系、そして周囲を高い山々に覆われています。
古くから北陸道の玄関口だったこの町は、多くの旅人が訪れる宿場町として栄えました。
このように自然は勿論、歴史的背景から見ても酒造りに関して最適な環境と言えます。
その環境からかつては15もの酒蔵が軒を連ねたそうです。(全体的な日本酒需要減少の煽りを受け2018年現在では残念ながら4蔵にまで減少。)
おそらく、この地を訪れる多くの旅人達の舌を満足させた事でしょう。
今現在は静かな佇まいを見せるこの町ですが、
時が止まったかのような昔ながらの街並みからはかつての賑わいを窺い知る事が出来ます。
こだわりのある酒造り
堀口酒造は1619年から家業として酒蔵を営み、(福井県で最も古い酒蔵なのだそうです。)
現在15代目の蔵付き杜氏が継いで、前代の岩手から来ていた杜氏の味を守り続けています。
地酒として福井産の酒米と水に拘り、味わいは酸味を抑えたきれいな酒を目指して造られています。
普通主、本醸造、金印などはタンク内で一年以上熟成させるそうです。
熟成により、香りや味わいが落ち着いて、より食事に合う酒に仕上がるのだとか。
更に上のランクの酒は五年以上タンク内で熟成させるそうです。
ちなみに、新酒まつりで出していたのは完全なる新酒だそうで、これは結構珍しいそうです。
さて、私が新酒まつりで飲んだ時の初っ端の感想は「凄く懐かしい味わいだ」というものでした。
私は今現在27歳なので、酒の味の感想に懐かしいもくそも無いハズなんですけど、何故かそう思いました。
そこで、試しに年配の方にこのお酒を飲んでもらった所、
「私らが昔飲んでいたお酒はまさにこんな感じだった」という証言を貰いました。
おそらく、日本人のDNAに刻まれている酒の味の記憶が呼び覚まされたのでしょう。
はっきり言ってしまえばメインストリームでは無いです。
今は、華やかな風味と甘美な味わいのお酒が主流で、
実際に農林水産省のデータでは徐々に日本酒(特定名称酒)の出荷量は回復してきています。
はっきりとした要因は分かりませんが、私個人の考えでは若い女性や甘党の男性を華やかな酒で取り込む事が出来たのではないかなと思っています。
今回私が飲んだ「本醸造にごり酒」は、
どっしりと旨味の乗った味わいと、特有の奥ゆかしい風味からは変な癖のような物は全く無く、非常に優れた食中酒という印象を受けます。
それでいて、これまで飲んだどのお酒ともまた違う個性を持っており、そこが前述のノスタルジー感を醸し出しているようです。
堀口酒造は、日本酒業界全体が主流のお酒を造る流れの中、
伝統の手法と味を守り抜群に個性のある酒を造るいぶし銀の酒蔵でした。
雑感
今回私は取材を兼ねて酒蔵に直接買いに行きましたが、出来れば小売り店から買ってほしいなと個人的には思います。
(堀口酒造のお酒は「みやごう酒店」や「本田酒店」、福井西部の地下のリカーコーナーで見かけた事があります。)
全ての酒蔵がそうではないのですが、酒蔵は造ったお酒は問屋に卸します、問屋は飲み屋や小売店に卸します。
しかし最近では酒蔵がネットショッピングを経営したり、ブログや各種SNSを駆使して積極的に営業活動に力を入れています。
要するに、思うようにお酒が売れないからです。
酒蔵がネットの世界に参入してきた事自体は面白いと思っていますが、
SNSやネットショップを管理するには当然その分の人手や時間が必要で、費用も掛かる事でしょう。
私個人としては、造り手は造る事に、売り手は売る事に集中して欲しいと思っています。
堀口酒造も、やりたいけど小規模の酒蔵なので人手的に営業にまで手が回りきらないという事をおっしゃっておりました。
じゃあ誰が営業すれば良いのかと言えば、それは私達日本酒ファン全員が営業をすれば良いんです。
例えばTwitterで、こんな美味い酒があったと投稿するとか、インスタグラムにお酒のラベルが見える写真を投稿するとか、個人個人のそういった小さい活動です。
優れたレアグルーヴを発掘し、商品としての価値を見つけるのは我々消費者だと思っています。
そのレアグルーヴを紹介し、情報を皆と共有する事は最早diggerの責務と言っても過言では無いでしょう。
(もちろんコマーシャル会社の力を侮っているわけではありません。情報伝達の力が発達した今だからこそでもあります。)
小売りで酒が売れ、小売りは問屋から卸し、酒蔵は問屋だけに販路を狭めれば酒蔵の手間は減り、人手や時間を酒造りにより多く注ぎ込む事が出来るのではないかなと。
長々と書き連ねましたが、とにかく福井の人はもっと福井の良い所を知って欲しいと感じます。それをもっとアピール出来れば尚良いです。
「梵・黒龍・花垣」だけではなく、独自路線を突き進む美川酒造「舞美人」、若き杜氏の飽くなき探求心が生み出す豊酒造「華燭」等々、
福井には面白い酒蔵が沢山あります。
自分の好きな業界を発展させたくば自分が発信者になれば良い、店からすれば広告費は無料。
堀口酒造の「鳴り瓢」もマニアだけが知ってる美味しいお酒でとどめておくのは勿体ないでしょう。
今回の酒蔵訪問を通してそのような感想を持ちました。
以上。
堀口酒造の息子で、このページに出ていた社長の弟です。社長の兄は、この春に他界し、今はその息子(私には甥にあたる)が跡を継いでいます。酒の評価を頂き、兄もさぞ喜んでいると思います。甥も兄の仕込んだ”うまい酒”を、これからも末永く醸造していってくれると期待します。
そうでしたか・・・去年の春先に取材に向かった際は元気そうにされていたので非常に驚きました。お悔やみ申しあげます。
また、16代目杜氏の造るお酒も、楽しみにしております。