高橋留美子先生の「犬夜叉」の続編がアニメ化するというニュースがSNSを席巻しています。高橋留美子先生といえば、「らんま1/2」や「めぞん一刻」などでも知られるヒットメーカーの漫画家です。出身は新潟県。「福井県の記事になぜ新潟の話」と思われるかもしれませんが、もう少しだけ話を聞いてください。
高橋留美子先生の漫画に「人魚の森」「人魚の傷」という作品があります。人魚の肉を食べてしまい、不老不死になってしまった人たちの物語です。この人魚シリーズの伝記風のシリアスな作風は、後の作品である犬夜叉に受け継がれている路線なのだとか。
高橋留美子先生の人魚シリーズのモデルになったのは、日本各地に伝わる「ある伝説」です。「ゲゲゲの鬼太郎」でも取り上げられたことのある、「八百比丘尼伝説(やおびくに でんせつ)」が作品のモデルだといわれます。
八百比丘尼伝説とは、人魚の肉を食べて不老になった女性の伝説です。いわゆる人魚伝説のひとつです。八百比丘尼伝説は日本各地にあり、少しずつ物語の内容や結末が違っているのだとか。
福井県にも八百比丘尼伝説があります。過去に福井の妖怪についてまとめたことがありましたが、八百比丘尼伝説もまた福井の代表的な妖怪話のひとつです。
高橋留美子先生作品がクローズアップされている今、フクブロの方でも時世に乗って人魚伝説・八百比丘尼伝説を調査してみました。
福井県の地域伝承でもあるので、福井ネタを紹介するときの豆知識にどうぞ。
八百比丘尼伝説とは?
出典:葛飾北斎画『椿説弓張月』より「人魚図」|椙山女学園大学デジタルライブラリー
まず「八百比丘尼伝説(やおびくに でんせつ)」について、もう少し詳しくお話しておきましょう。
八百比丘尼伝説は、人魚の肉を食べた女性が不老不死になったという伝説です。総括すると、これだけです。八百比丘尼(女性)が謎肉を食べて不老になる。以上。という話になります。
百比丘尼が不老になった後に「何をしたか」などは地域によって伝承がかなり異なるのですが、ほとんどの伝承で共通しているのは「人魚と思われる謎の肉を食べてしまった」という点です。
そして、人魚の肉らしきものを食べた女性が不老になるという点。食べるのは男性ではなく、調べた範囲ではほぼ女性なのです。さらに、人魚らしきものの肉を食べた女性は、何時までも若々しく白い肌をしていて、美しかったという点になります。
一種不気味な伝説ですが、漫画やゲームでもよく取り上げられる題材なので、日本人の興味を惹きやすい話でもあるのではないでしょうか。
そして、正体不明の生物の肉を食べてはいけないという教訓のような話でもありますね。日本ではこのようにお腹を下すだけでなく、うっかり不老になってしまうこともあるようですから・・・。
八百比丘尼の読み方は諸説あり、「やおびくに」と読む地域もあれば「はっぴゃくびくに」と読む地域もあります。他には「おびくに」と読む地域もあるそうです。また、八百比丘尼の他には「千比丘尼」「白比丘尼」などの名前で伝わる地方もあるそうですよ。
この八百比丘尼伝説が特に多く残っているのは、福井県や石川県、新潟県、京都府、埼玉県、岐阜県、愛知県などだそうです。九州や東北などには、関西や福井のあたりより分布が集中的かつ少ないのだとか。
福井県の八百比丘尼伝説とは?
出典:ふくいドットコム
福井県は人魚・八百比丘尼伝説で特に有名な自治体です。福井県の中で特に八百比丘尼伝説が有名なのは、小浜市とおおい市になります。
小浜市の伝説では、村娘が不思議な生き物の肉を食べて不老になってしまい、1,000年もの寿命を得たといいます。自分は老いずに若いまま。しかし、知り合いはすべて普通に老化しますから、やがて死んでしまいます。
周囲の人々が気味悪がったこともあり、八百比丘尼は旅に出たのだそうです。旅の最中、八百比丘尼は各地に松や杉、椿を植えたといいます。
やがて八百比丘尼は旅を終え、定住を決めます。
八百比丘尼が齢800のときに近隣のお殿様が病気になりました。自分の寿命をお殿様に捧げて亡くなったのだとか。
不老の体とお殿様に寿命を譲ったという逸話から、小浜市の八百比丘尼は、小浜市の神明神社内に祀られるようになったそうです。小浜市の八百比丘尼は坐像も残っており、手に持つ白い椿と宝珠、優しそうな微笑が印象的な女性の像です。
福井県には「尼来峠(あまきとうげ)」など、八百比丘尼由来の観光地が残っています。
八百比丘尼伝説は日本各地にある!福井との違い
福井県以外の都道府県にも八百比丘尼の伝説が数多く残っています。中でも特徴的な地域伝承を4つピックアップして、福井の伝承と比較しながらご紹介します。
新潟県の八百比丘尼伝説
新潟県佐渡市の八百比丘尼伝説です。新潟県といえば高橋留美子先生の出身地。作品にも影響を与えているかもしれない伝承ではないでしょうか。
新潟県で生まれた八百比丘尼は人魚らしき生き物の肉を食べ、1,000年の寿命を得ました。しかし、周りは死んでしまうのに自分は若々しいまま生き続けることを嘆き、国の有力者に200年分の寿命を譲って遠い土地へ旅立ったと伝わります。最終的に新潟の八百比丘尼がたどり着いたのは今の福井県だったと伝わっています。
福井の八百比丘尼伝説との違いは、出身地でしょうか。この伝説では、新潟で生まれて、新潟で人魚の肉を食べ、最終的に福井で亡くなったことになっているようです。
福島県の八百比丘尼伝説
福島県喜多方市の伝承では、八百比丘尼は竜宮城の貝を食べてしまい、不老になったといわれています。福島県の八百比丘尼は不老の身で病気を患う人々を救い、天皇から褒美をもらったそうです。
福島県の八百比丘尼が食べた貝の殻や着用していたものなどが、現在も残っているとのこと。福井県の八百比丘尼との大きな違いは、人魚の肉ではなく竜宮城の貝を食べてしまったところでしょうか。
福島県の八百比丘尼と福井県の八百比丘尼については、掛け軸や像などの伝承の品が残っていたことから、ふたつの地域の伝承の品の特別展示会などが行われたことがあります。
群馬県の八百比丘尼伝説
群馬県の八百比丘尼伝説は、祭りにやって来た奇妙な客の魚が発端です。正体の知れぬ客が祭りに持って来たのは、世にも珍しい魚のような何かでした。村の者のうち一人がその魚を勝手に食べてしまい、周囲から「客の魚を勝手に食べるとは」と怒られて、村から出て行くことになってしまいました。
村から出て行くことになった村人は、去り際に村の目印として樹を植えます。
各地を旅して戻ってみると樹木は大きくなり、村人のことを覚えている者は誰もいなくなっていたそうです。長い時を生きた村人が樹木を切り倒して年輪から旅の期間を計算してみると、何と800年もの年月が経っていたのだとか。
この、勝手に客の奇妙な魚を食べてしまった村人であり、樹木を植えて長い時を旅した旅人こそが、八百比丘尼だったそうです。
福井県の八百比丘尼伝説との違いは、周囲に勝手に食べられたことを咎められて村を出てしまうところですね。それと、樹木の年輪で時の経過を知るところも、違っているのではないでしょうか。
岐阜県の八百比丘尼伝説
岐阜県に伝わる八百比丘尼伝説は、「どこかで耳にしたような」と多くの人が首を傾げるような内容です。
岐阜県のある村に酒屋がおりました。酒屋の元に、ある日、少年が訪ねてきます。少年はひょうたんを持っていて、そのひょうたんに大量の酒を入れてくれというのです。酒屋はひょうたんに大量の酒など入るわけがないと思いましたが、少年の言う通りにしてみると、するすると酒が入るではありませんか。
実はこの少年、正体は魚。水の中にある龍宮の遣いで、酒屋にわけてもらった酒をお祭りに使うのだと話すではありませんか。
親切に酒をわけてくれた酒屋に、少年の主である乙姫は「玉手箱(聞き耳の箱)」を礼だと言って渡します。少年の主である乙姫が語るに、この箱を持っていれば獣や魚の言葉を聞き分けることができるのだそうです。ただ、開けると大変なことになってしまうのだと。
ある日、酒屋が留守にしているときに、事情を知らない酒屋の娘が、うっかり箱を開けてしまいました。
箱の中には魚が一匹いるではありませんか。娘は魚を食べてしまいます。酒屋は箱を開けられてしまったことで、急死したそうです。魚を食べた娘は、呪いなのか、それとも魔法なのか、齢800まで死ぬことがなかったのだとか。
逸話の中には玉手箱(聞き耳の箱)や乙姫が登場する岐阜の八百比丘尼伝説は、浦島太郎の話と混ざっていると指摘されています。
福井の八百比丘尼伝説と比較すると、謎の魚を食べて不老になる娘の点では同じですが、途中から浦島太郎要素が強くなってしまい、まったく別の物語のように感じられますね。
さいごに
八百比丘尼伝説は日本各地にありますが、福井の八百比丘尼伝説は総本山ともいうべき存在です。多くの地域の八百比丘尼伝説では福井県で彼女が最後を迎えたことになっていたり、終の住居になったりしているからです。
八百比丘尼の食べた人魚は実在したのか。人魚とは何なのか。諸説入り混じっている八百比丘尼伝説を考察してみるのも面白そうです。
八百比丘尼伝説は福井県の有名な伝承の一つなので、他県の人に福井を説明するときの話の切り口としても面白そうですね。
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